大津川水系の槙尾川ダム
淀川水系の安威川ダム
紀ノ川水系の紀伊丹生川ダム の建設中止を求めます。

 上記の3ダムは、まず洪水対策を掲げているが、いずれも基本高水量が過大で、その算出根拠は科学的ではない。また、巨額の事業費を要するダムを造らずとも洪水に対処できる。すなわち、建設省のいうダムに頼らない「総合治水」の考え方、洪水が川からあふれ出しても水害にしない「超過洪水対策」で十分対処でき、また、安全性をより上げるにはその方向への対策を進めるべきである。これらの考え方には洪水を堤防の中に押し込める治水の限界を理解し、保水・遊水機能の増進、越流しても破堤しない堤防の建設、さらに住民の協力を得ることなどが明記されている。

 安威川ダムと紀伊丹生川ダムは水道水源をも目的にしているが、水道用水の需要予測は下方修正が恒常化しており、過大な用水の需要予測に基づくダム計画は相次いで中止されている。大阪府においても水道用水の使用実績は横這い状態てあり、需要予測の下方修正が繰り返されている。そしてこの状況のもとで水道料金を押し上げるダム建設が批判されている。また、いずれのダムも定量放流による河川の流れの正常な機能維持を謳っているが、ダム湖の水質悪化は各地で深刻化しているうえ、ダム建設によって得られるものは、ダム建設で失う物に比べてあまりに小さい。なお日本の河川生態系の特徴は流量あるいは水位の大きな変動がもたらす物理環境の変化に基づいていることにも気付くべきである。

 さらに、危機的状況にある大阪府、国の財政事情をあわせると、これらのダムは全国的に強く批判されているムダな公共事業の典型と言うべきであり、かつこれらの事業費は着工後に膨張することを合わせると、どの観点からみてもこれらのダム建設は中止されるべきものである。以下にそれぞれのダム建設計画に対する問題点と治水対策をまとめ、水道用水の問題は、共通の課題として最後にまとめた。

 別紙ー1に3つのダムの概要を示す。なお、技術面におけるやりとりが適宜、あるいは事業再評価の陳述の場で政策に疑問を持つ住民側と行政側の間で行われているものの、洪水対策のような科学的・技術的やりとりが、行政側の「まずダムありき」によって、共通の土俵上での真摯な科学・技術論争にはなっていない点が最も深刻な社会問題である。

1. 槙尾川ダム
計画の問題点


1-1  槙尾川ダムは治水目的に自然流下式の孔あきダムとして計画された。槙尾川の水害は、主として家屋への浸水と田畑の冠水、古い護岸の洗掘崩壊で、小規模・分散型である。また川よりも周囲の地盤が高いので、洪水流がまわりに広く溢れることもなく、大規模な河川改修やダムで対処しなくても場所ごとに対策をとることで対処できる。何カ所かで固定堰が上流への堆砂を生じ、それが水位を押し上げて溢水させている。そのひとつである殿原井堰は、我々の指摘を認めて意外なほど早く改修工事が行われている。

1-2  流出計算に用いている「中安総合単位図法」は水文資料のない流域に用いる古い手法で、現在では時代遅れである。この手法を用いるに当たって、累積雨量が100mmを越すと、越した分の降雨量に対する流出係数を100%にしていることも問題である。この地域の森林は十分保水機能があるので、この設定は過大な河川流量を算出する。

1-3  ダム地点の計画流量85m3/秒を流域面積3.4km2で割って、この流量に対する時間降雨量を逆算すると90mmとなり、さらに流出係数を75%に仮定すると120mmの非現実的な豪雨になる。これは設定したモデル降雨の最大時間雨量86mmをはるかに越えて矛盾する。過去の降雨実績を統計処理して求める計画降雨の設定に最近の降雨データを用いていないのも問題である。

1-4  ダム建設の根拠とする計画高水量は、実績降雨パターンを用いるべきであるのに、人為モデルを用いている。これによって槙尾川の治水基準点である板原地区で750m3/秒、ダム地点で85m3/秒としている。実績降雨パターンを用いると、それぞれ698m3/秒、55m3/秒で、特にダム地点の流量が小さくなる。

1-5 河川計画の基礎である基本高水量は、上記の問題点を解決して正しく算出するとかなり小さくなり、現計画値が過大であることは明らかである。さらにダムの流域面積が、槙尾川の流域面積56.7km2のわずか6%の3.4km2であることは、治水に対するこのダムの貢献度の低さを表している。

1-6 ダム地点の地盤状況を平成2年のボーリング調査で見ると河床部は風化層が厚く、左岸側も風化が進んでいるうえ、岩盤の透水性を示すルジオン値の大きい層が存在するので、ダム基礎の掘削量は大きく、また止水のための岩盤注入量も大きくなり、45億円と見積もっているダム本体の工事費の増大が懸念される。

1-7 河川維持用水の確保を謳っているが、この川は水が涸れることはほとんどなく、それによる効能は、ダムによって失われるものに較ぶべくもない。このダム地点の渓流沿いには霊山「槙尾山」の参道が通り、オオタカの繁殖が確認され、近畿版レッドデータブック記載の植物種が生育している。また、ダム湖を観光地にする絵が描かれているが、渓流にそそり立つ巨大コンクリート構造物は景観を損なうのみである。なお、和泉市との話し合いの中で、市の担当者は水害の深刻さを語らず、もっぱら道路などのダム付帯工事を期待していた。

1-8 ダム計画は、関西空港関連事業として出てきたいきさつが語られている。ダム建設地点が槙尾川の主流である父鬼川から現在の地点に変更された社会的・技術的根拠はあいまいで、もともとなぜこの川に、またこんなに小さい流域にダムが必要かさえ未だに明確ではない。

提案する洪水対策
1-9  現在計画・実施されている河道改修工事を進めていけば治水上の安全性は確保できる。ただし堆砂によるこの河床上昇の原因になっている固定堰の改築は必要である。また、建設省の河川審議会答申の総合治水、超過洪水対策を併せて進めるべきである。

1-10 予想を超える降雨に対する対策のひとつである遊水地を、槙尾川中流域の万町旧蛇行跡と、東槙尾川の砕石場跡地および父鬼川の側川合流点の採石場跡地に作る。前者は普段公園として、後2者は殺風景な跡地の修景池として用いる。これらは合わせると数十万m3の貯水能力を発揮できる。また、大阪府が暫定使用としている、いぶき野の泰成橋下流左岸の住都公団団地の防災調整池を恒久的遊水地にすべきである。なお、東槙尾川の砕石場は近畿行政監察局が大阪府に対して環境保全努力を不足を指摘しているところである。これらはダムの代替ではなく、超過洪水に対する対応である。大阪府はこの調整池の調整能力は小さいとしているが、総合治水とは、特効薬を期待せず、むしろ小さい効能を数多く設けることである。大阪府は大小の遊水地をすでに寝屋川流域に設けているのである。こられ遊水地の候補地を別紙-2に示す。

2 安威川ダム
計画の問題点

2-1 1967年の北摂豪雨を契機に、治水目的をもって検討され、1971年に堤高70mの重力式コンクリートダムが計画され、目的に農業用水と河川維持用水が加えられた。当時はダム建設に関わる問題点は一般化しておらず、素朴な治水対策として受け入れられたものと考えられるが、計画から30年を経た現在に至るまで、建設の是非をめぐって争われている情況は、他のダム計画事例と同様に、この計画が抱える根本的問題の存在を示唆している。

2-2 計画は1987年に堤高82.5mのロックフィルダムに変更され、総貯水量が約10%増しの2290万m3になった。利水量は100万m3減の750万m3になり、農業用水が上水に変更された。この理由は不明であるが、農業関係者の協力(負担)が得られなかったからといわれている。ダム計画の出発点になった1967年の水害は内水氾濫と支流の破堤による氾濫である。これらは上流部の宅地開発に河川整備が追いつかなかったからである。その後、50年確率降雨とされるこのレベルの降雨に対する河川改修と多数の排水機場など内水対策が完了し、1967年以降、現在までの33年間に水害といえるものは生じていない。

2-3 このダム計画においても計画降雨量を降らせる降雨パターンは、実績降雨を用いずに、槙尾川ダムと同様の人工降雨型を選んでいる。その結果、大正川合流点で毎秒1500m3、相川で毎秒1750m3という過大な基本高水量を算出し、自然流下式の孔あきダムで毎秒600m3をカットすることになった。1953年(S28)9月降雨の降雨パターンを用いると上記2地点の毎秒の流量はそれぞれ1315m3、1559m3と小さくなり、さらに、ダム建設計画の出発点となった1967年(S42)7月降雨の降雨パターンを用いると、それぞれ1188m3、1484m3に減る。この人工降雨パターンは大きな流量を算出している。

2-4 建設省河川砂防技術基準によれば、計画降雨量の降らせ方を10以上の実績降雨パターンに置き換え(ここで雨量の引き伸ばしが行われる)、流出計算で得られるピーク流量群の50%以上をカバーできる流量値を基本高水量とし、1級河川ではこれを60〜80%にする例が多いとしている。大阪府はこれらの基本高水量を「カバー率が100%に近いので、高い安全性が得られる」としているが、このような安全率は高いほど良いとする単純な決定方法はあまりに乱暴である。

2-5 この種の防災で必要な安全性の決定は、事業費、その効果、社会的な必要性、技術的難易、社会的難易、所要時間など、多くの要因を合わせ考えるべきで、多くの河川事業が大き過ぎる目標、過剰な安全性(率)を掲げたために長期間を経過しても実現できずにいるのである。

2-6 安威川におけるカバー率を70%に採れば、基本高水量は、大正川合流点前で毎秒1150m3、相川で1400m3となり、ダムに頼らない洪水対策を立てることが十分可能である(上野鉄男、1997、茨木北部丘陵の自然を守る市民会議)。また、流出計算に必要な流出係数を決めるのに、亀岡のゴルフ場と北部丘陵開発地を周辺を含めて市街地としていることも過大流量の算定に寄与しており問題である。これらは流出量を増さないように十分な容量の調節地、遊水地を備えるべきで、ダムを当てにした大規模開発の既成事実化は大きな問題である。

2-7 コンクリートダムからロックフィルダムへの変更は、ダム計画地点の地盤の脆弱さを克服するためと理解できるが、ダム地点は、この付近の巨大構造線である有馬高槻構造線に近接し、これに沿う活断層とされる馬場断層が800m北でダム湖を横切り、真上断層と安威断層が約2.5km南を走っている。大阪府の調査でダムサイトに8系統24本の断層が分布すること、特に左岸側に北東から南西に伸びる7本と、北西から南東に伸びる4本が分布して複雑な岩盤情況を呈していることが明らかになっている。ロックフィルダムは変形に対してコンクリートダムよりも柔軟であるにしても、大型ダムの立地条件として、この地質構造は適切ではない。さらに、ダム湖の上流域に、規模の大きい地滑りの可能性の高い地域を含むことも問題である。

2-8 ダム事業費は1970年当初は360億円であつたが、1987年には836億円に跳ね上がった。内訳は治水関係が584億円、利水関係が252億円で、さらに1998年には物価スライドによって976億円になった。大型公共事業の事業費膨張の典型的姿である。

2-9 このダム計画をめぐっては、住民側の情報公開請求と府側の拒否、そして異議申し立てのあとに続く地裁、高裁、最高裁の判決という、情報公開という民主主義を保証する手続きを勝ち取った成果とその過程を見過ごすことはできない。真摯な科学・技術論争は社会的に大きな影響を与える公共施設の建設遂行の必須条件であるが、このダムでは特にこの面の意見交換に不備があり、ダム計画に対する疑問が深まる一
方で、根本的問題を先送りするほど事業費は上昇していく。

2-10 この川では上流域に人間活動の場が点在するので、ダムの水質悪化が強く懸念される。また、河川維持用水が確保されても、ダム建設で失うものに対しする効用はあまりにわずかである。

提案する治水対策

2-11 50年確率降雨に対する河川改修と多数の排水機場など内水対策は完了しており、1967年以降、現在までの33年間に水害といえるものは生じていないので、より安全性を上げるためには、総合治水の考え方をとり、超過確率洪水対策を進めるべきである。

2-12 河川の複断面構造を改め、洗掘に対する堤脚保護を図ったうえ、高水敷幅を減らして河積を増すべきである。また、それによって水環境に基盤を置く水性生物相の生息空間が改善される。

2-13 上流部の採石場、採石場跡地を遊水池にする。遊水池は降雨の降り始めから水を貯める通常のダムとは異なり、洪水のピークだけをカットできるので、容量の割に効率がよい。また、過密低地の浸水に対する備えを高めるためには、大阪市、大阪府が建設している地下貯水槽や地下トンネルを公園や道路下に設けることや、学校の運動場などを強雨時の一時貯留地にするなど、すでに各地で採られている簡易な方法を応用して、かつての田畑に代わる流出抑制策を採るべきである。


3. 紀伊丹生川ダム
計画の問題点


3-1 紀の川全体の治水計画の根拠となる基本高水量は、150年確率の2日降雨量440mmから算出されているが、この計画降雨の降雨パターンには恣意的な集中豪雨型が採られている。すなわち、2日雨量といいながら、降雨を20時間に集中させている。さらに、その降雨パターンは既往最大の2日間流域平均雨量である伊勢湾台風時の316mmなど、大きな雨量をもたらした降雨パターンを用いずに、それほどの大雨とはいえない190mmの降雨パターンを用い、この実績降雨量を計画降雨量へ引き伸ばす倍率を2.32倍に採っている。「建設省河川砂防技術基準」はこの引き伸ばし倍率を2倍程度まで、また引き延ばしの結果、現実離れしない降雨であることを要求している。近畿地建は流量が最大となるこの降雨パターンを最も危険な場合として選んでいるが、この引き伸ばし倍率は、短時間の実績強雨を現実離れした集中豪雨に作り変える役割を持つ。この降雨パターンは、大雨とは強く降るとともに長く降るという一般常識から外れており、これによって算出した、紀の川の基本高水量の毎秒16000m3は過大で、確率150年を大きく上回る低い発生確率になる。

3-2 紀の川の上流域は多雨地帯である大台ヶ原を含むので、慣用の方法で求めた上記の440mmは必ずしも過大とは言えないが、瀬戸内気候で雨が少ない丹生川流域にこの降雨をそのまま持ち込んだために、丹生川の流量はきわめて過大に設定したことになり、したがって、紀伊丹生川ダムに過大な貯水量を持たせることになっている。ダム地点の流域面積63km2に対して瀬戸内気候の年平均降雨量1400mmを掛けると年間総降雨量は8820万m3になる。地下浸透や蒸発で30%が失われるとすると流出量は6174万m3になり、ダムの総貯水容量6040万m3とほぼ同じになる。一方、ダムの貯水は、毎秒2.8m3を大阪府営水道に、0.74m3を維持放流するとしているが、維持放流だけでも年間2330万m3になり、小さい流域面積と少ない降雨量、さらに普段の流れの状況からみても、このダムには水は貯まらない。あるいは貯めた水は非常用として保持され、常時の放流はできない不合理を生む。

3-3 建設省直轄ダムの流域面接と貯水量の関係からみても、多雨地帯あるいは上流に別のダムがある場合に容量の大きいダムはあるが、このダムの貯水容量は流域面積との相対において飛び抜けて大きい。しかし、ダム堤体はわが国のダムで15番目もの高さを有し、過大に見積もった貯水容量を認めるとしても、その貯水量との相対においてはきわめて大規模であり、したがって、ダムの規模と建設費の両面からもきわめて非効率なダムである。

3-4 丹生川のダム地点の計画高水量は毎秒1500m3と算出されている。この過大流量は報告書「紀伊丹生川ダム建設事業について、近畿地建、H10.4」で実感できる。昭和57年8月にダムサイト近くの丹生川に沿う道路に溢れる洪水流の写真があり、そのときの流量を毎秒246m3としている。これすら滅多に起こらない出水であるのに、その6倍を超える毎秒1500m3は想像を絶する洪水を予測していることになる。

3-5 流域の流出係数を75%として、毎秒1500m3からこれに見合う時間雨量を合理式を用いて逆算すると114mmというとてつもない雨を想定していることになる。同報告書には、紀ノ川の堤防が決壊したときの浸水地域が色塗りされ、丹生川ダムの必要性を強調しているが、丹生川の常識的な出水量をもってすれば、紀ノ川の洪水低減に対する紀伊丹生川ダムの貢献度はごく小さく、このために必要な1560億円という巨額の事業費は全く割に合わない。この事業費はみんなが納得する総合治水にまわすべきである。

3-6 ダム計画地点は玉川峡として有名な景勝地で、天然記念物のカモシカ、全滅危惧種のクマタカ、危急種のオオタカなどをはじめ、保護を要する希少動植物が多い。ダム湖に水没する地域には植物1050種、動物約1350種の生育、生息が確認されている。失う生き物と自然環境、景観の重さを考えるべきである。

提案する洪水対策

3-8 上記報告書「紀伊丹生川ダム建設事業について」による紀の川流域(主として丹生川合流点よりも下流)の水害統計によると、第2室戸台風(1961年9月)よりのちの約40年間は、床下・床上浸水が数回出る程度に水害が減っている。これらの浸水は紀の川自体に起因するものではなく、内水氾濫によるものと考えられる。この水害の著しい低減は、長年にわたる河川改修の成果である。3-9 紀の川には問題視されている河道狭窄部が小豆島、岩田、作房、船岡山地区にあるが、河道掘削と引き堤で対処でき、ダム建設費の数分の1の事業費で足りる。また、縦割り行政は改めるべきで、農水省の大迫ダムなど既設のダムに総合治水対策として洪水調節機能を持たせるべきである。これらのダムにこの機能を少し持たせるだけで、紀伊丹生川ダムに計画したのと同程度の洪水調節機能を新たに生みだすことができる。

3-10 紀伊丹生川には治水対策上、特に問題になるところはない。

3-11 超過洪水対策を含む総合治水対策を立てるべきである。越流しても破堤しない堤防(スーパー堤防など)への改修、水害防備林の建設、都市域からの流出抑制、小規模遊水地の設置、山地の保水性の強化などである。

4. 過大な水需要予測と水利権調整の欠如

 大阪府は「生活用水の需要が増加するため新たなダムが必要」としているが、これを2つの面から検証する必要がある。ひとつは需要予測が適切かどうか、もうひとつは、需要増加への対応は、新たなダム以外に方法がないのか、である。

4-1 水需要予測は適切か
 「大阪府営水道の将来水需要・概要版1998年2月」(以下「概要版」と呼ぶ)では、大阪府営水道の需要増加と減少の要因を次のように挙げている。これらについて考察する。

・原単位の増加(生活水準の向上、世帯構成人員の減少など)
  ・ 人口の増加(2010年がピーク)
  ・ 自己水源から府営水道への切り換え
  ・ 新規開発による営業用水の増加
  ・ 節水による需要減

(1)原単位について
 「概要版」掲載の86〜95年度までの実績をみると、92年度までは各地域とも原単位がほぼ上昇しているが、大阪市を除く北大阪は、90年度がピークであり、東大阪(大阪市除く)・南河内・泉州も95年度は前年度よりも減少している。水使用量は天候や渇水等の他、景気にも左右されるので短期間の動向で将来を予測することは困難であるが、わずかとはいえ原単位が減少していることは重要で、安易に「今後も増加していくものと考えられる「概要版」の結論」とすべきではない。

(2)人口予測について
 2010年の大阪府の推計人口(大阪市を含む)として『概要版』は、888万人・879万人・856万人の3ケースをあげ、中位の数値を採用している。しかし、『市町村の将来人口』(R日本統計協会、97年)は、90年度と95年度の国勢調査結果から2010年の大阪府全体人口を843万人、2025年時点で740万人と推計している。後の(6)で触れる負荷率によって水量には一定の余裕が見込まれているから水道施設、とくに水源施設の耐用年数を考慮すると、人口予測はよりシビアに行うべきである。

(3)自己水源について
 「概要版」は、府営水道が高度浄水処理を開始したので、水源水質に不安がある市町村が府営水道に切り換えると見込んでいる。確かに有機溶剤等による地下水汚染等はあとを絶たないが、その水源を使い続けることによって、汚染源に対してより厳しく対処できる。自己水源を放棄すれば、地下水汚染等に敏感でなくなるだけでなく、府営水道に事故があった場合の応急給水に対応できない事態も考えられる。自己水源の確保は危機管理という面からも評価する必要がある。

(4)営業用水について
 既存分の営業用水は86〜95年度の平均値を将来値としているが、バブル崩壊の90〜91年度がピークなので、将来値は過去10年間の平均値よりも低下するのではないか。また、新規開発分については居住系を除いて2010年に4万7千m3/日を見込んでいるが、新規開発地に立地する事業所には既存地域から移転するものも相当あると考えられるので、既存分の減少を考慮する必要がある。

(5)節水について
 96年度の給水人口1人1日当たりの平均配水量は、福岡市0.32m3に対して名古屋市0.41m3、大阪市0.59m3となっている。営業用水を考慮し、95年度国勢調査に基づく昼夜人口比率で単純に割り戻すと福岡市0.28m3、名古屋市0.35m3、大阪市0.41m3となる。大都市どうしで5割近い格差があるのは、節水についての行政の取り組みの違いと考えられる。  節水について「概要版」は、風呂水の洗濯利用(50%の家庭に普及し、洗濯用水の50%を風呂水でまかなう)、食器洗浄機利用、洗車のバケツ洗いの3要素を考慮しているが、大阪市については当面、福岡市レベルまで、少なくとも名古屋市レベルまで減る(減らす)ことを前提にすべきである。大阪府の2010年度予測は給水人口を624万人、日平均給水量を252万8726m3(営業用水含む)としているので、1日1人0.41m3であり、福岡市の現状0.32m3よりも約3割多い。大阪市と同様の節水努力が必要である。
 また、家庭用水用量の内訳は、東京都水道局資料(日本の水資源 : 水資源白書)では、炊事23、洗濯24、トイレ21、風呂24、洗面その他8%であるが、「概要版」の飽和値は、炊事15、洗濯13、トイレ17、風呂41、洗面その他13%で、風呂の比率がかなり高くなっている。原単位法による水量設定を再検討する必要があるのではないか。

(6)日最大給水量について
 「概要版」が対象とするベース水量は「日最大給水量」である。これは1年間で最も多く給水した日の給水量である。予測日最大給水量は原単位などから計算される予測日平均給水量を「負荷率」で割って求める。負荷率とは一定期間中の日平均給水量と日最大給水量との比である。この負荷率の値として「概要版」は、近年最低であった94年度の79.5%(4地域平均)を採用している。負荷率を低くとれば、より安定的に給水できることになるが、設備と水源の利用効率が低くなることになる。負荷率を最低実績とするのではなく、平均値に採るべきである。年に何日か水道の出が悪くなることは許容できる(むしろ水道の存在意義が実感できる)。

(7)水需要予測は過大である
 以上をまとめると、大阪府営水道の水需要予測は過大であるといえる。景気が良かった時代の給水実績や期待過剰ぎみの人口増加予測をもとに、日最大ペースで今後の水需要を設定することは「安定給水」は満足するが、これがダム開発につながれば過剰な投資と環境破壊を引き起こし、利用効率の低下による財政負担の重圧を招くことになる。
 別紙ー3の図−1(朝日新聞1999.10.18)は、過去の水道水の需要予測と実績で、実績とかけ離れた予測の下方修正が繰り返し行われている。図の右の表は、淀川の水利権と取水実績で、水利権の28%が未使用である。工業用水は半分程度しか使われていない。図−2は1995年に立てられた需要予測であるが、この右肩上がりの予測は、すでに図−1の横這いの実績から離れていることが分かる。

4-2水利権調整のルールづくりをすすめよう

 大阪府営水道の水需要予測が過大であると結論づけたが、仮にその予測が正しかつた場合の対応を検討しよう。水需要が増加する場合の対応として、水源開発の前にまず他の用水(水利権)の転用を検討すべきである。水利権の転用は、巨額の投資も、新たな自然破壊ももたらさない最良の水源確保の方法である。現在の水利権は過去において投資や自然破壊を伴って生み出されたものであるが、その水利権をできるだけ活用することは現在の私たちの使命である。
 大阪府は7拡計画で「今後必要な上水水利権」を毎秒6.844m3(日量約59万m3。うち完成近い紀伊丹生川ダム2.474m3)に設定している。一方、大阪府の工業用水水利権9.953・に対して99年3月末現在の契約水量は7.429m3で、2.524m3の余裕がある。これは、紀伊丹生川ダムを除く「今後必要な水利権」の約6割に相当する。工業用水の需要は今後も増加せず、むしろ減少が見込まれるので、さらに余裕が増す。また、淀川には大阪府以外の工業用水の水利権が約15m3、農業用水の水利権が16.8・設定されている。いずれも実績使用量に比べて余裕があると思われるが、これらの一部を転用すれば、新たな水源開発は不要となる(大阪府以外の上水の水利権46.7m3にも余裕があるのではないか)。
 全体として水利権に余裕があるのに、新たな水源開発が必要になるのは、水利権の調整や転換が困難なためである。水利権の転換をスムーズに行うためにも、また、これまで水利権を開発・維持してきた重みからも有償で転換を行う必要がある。ダムによる新規利水のコストが毎秒1m3当たり200〜300億円にものぼる現実からも水利権の有償転換は重要である。そのためのルールづくりが緊急の課題である。
 なお、将来にわたって水利権が全体として不足するケースも理屈上ありうるが、その場合でも直ちにダムという結論にはならない。たとえば地下水の利用や、新規開発業務地の雑用水に再利用水や雨水を使うなど、多様な水源の選択肢があり得るからである。

公共事業チェックを求めるNGOの会(405団体) 代表 天野礼子
安威川ダム反対市民の会              代表 江菅洋一
槙尾川ダムの見直しを求める連絡会        代表 小林昌子
紀伊丹生川ダム建設を考える会           代表 石神正浩