槇尾川ダムに関する質問
T.基本高水流量を切り上げ処理した件
大阪府は基本高水流量710Ton/Sを端数処理として750Ton/sに切り上げ、これを槇尾川ダムで75Ton/sカットすることにより板原地区の計画高水流量を700Ton/Sとする計画である。
仮に切り上げ処理しなければ10Ton/Sの為にダムを作ることとなり、かねてより問題を指摘しているところである。
千田稔著書には確かに300〜1000Ton/Sの間は50Ton単位に切り上げ処理する旨の記述があるが、この趣旨はあくまで工学的に意味ある単位に端数処理することが必要との意味であり、710Ton/Sは既に端数処理された工学的に意味ある数字である。
大阪府の見解のように自動的に切り上げ処理するような性格のものではない。
50Ton単位に切り上げるというのはあくまで安全率の見方であり、必ずこのような処理をすべきというような性質のものではない。千田稔氏の記述にも単に機械的に数字を整理するだけでなく・・・との記述もある。ダムが必要か否かが決まるような場合に機械的に切り上げ処理することは暴挙と言わねばならない。
又この安全率の取り方についても元の値により大きく安全率が異なる結果となる。極端な例をとると701Tonの場合は安全率は49/701で7%、699Tonの場合は1/699で0.1%と元の値により安全率大きくは異なり、このような安全率の取り方は極めて不合理と言わざるを得ない。
このような切り上げの端数処理は千田氏の個人的見解と解すべきで、建設省河川砂防技術基準(案)をはじめ知りうる限りの資料にもこのような高水流量の切り上げを論じたものは見あたらない。
比較的小規模(基本高水<1000Ton/S)の他自治体の河川計画にも50Ton単位に切り上げ処理などしているところは見あたらない。
参考までに知り得た計画を以下に示す。
本計画の安全率は100年確率対応、計画雨量への引き延ばし率が2.0を越えているなど既に十分すぎるほどの安全サイドの計画となっており、さらに輪をかけて安全サイドに切り上げ処理することは無用なことと言わねばならない。
所在地
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河川名
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基準地点
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基本高水
(Ton/S)) |
洪水調節量(Ton/S)) |
河道への配分(Ton/S)) |
ダム
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広島県 |
八幡川 |
皆賀橋 |
780 |
260 |
520 |
魚切ダム |
長崎県 |
志佐川 |
庄野橋 |
655 |
35 |
620 |
|
長崎県 |
本明川 |
裏山 |
1070 |
260 |
810 |
小ヶ倉ダム |
和歌山県 |
切目川 |
切目橋 |
780 |
70 |
710 |
切目川ダム |
岡山県 |
八塔寺川 |
吉永 |
630 |
210 |
420 |
八塔川ダム |
岩手県 |
築川 |
築川橋 |
780 |
440 |
340 |
築川ダム |
埼玉県 |
芝川 |
荒川合流点 |
660 |
410 |
250 |
芝川調整池 |
福島県 |
右支夏井川 |
稲荷橋 |
440 |
100 |
340 |
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U.ダム直下での基本高水流量の件
今回のダム計画は槇尾川ダムでのピーク流量(基本高水流量)85トン/秒を75トン/秒カットし、これによって板原治水基準点のピーク流量を750トン/秒から700トン/秒にする計画であります。
ところでこの槇尾川ダムでのピーク流量についてはかねてより多すぎるのではないかと大阪府等に疑問を投げかけていました。その趣旨は今回の計画の1時間最大降雨強度86.9mm/Hrの雨を全て集めたとした時のピーク流量は82.1トン/秒(*)であり、今回のピーク流量85トン/秒はこれを上回っており、降った雨以上に水が流れる事などは自然界では考えられません。
* 86.9(最大雨量:mm/hr)x3.4(流域面積:km2)/3.6=82.1m3/sec
更に一般的に使用される山間部での流出係数0.7をかければ最大流量は57.5トン/秒となり、計画の85トン/秒は過大に見積もった計画と言えます。
私たちのこの主張に対して先般の建設事業再評価委員会での大阪府の見解は合理式を用いてもほぼ同程度の計算結果が得られるとしてその正当性を主張しました。
その合理式の内容は流域面積3.4? 、 流出係数0.7、ダム地点の洪水到達時間20分、20分間の100年確率降雨強度は132.6o / Hr として合理式に当てはめるとピーク流量は87.7トン/秒となるから今回の計画最大流量85トン/秒は妥当であるとの主張であります。
ここで問題なのは洪水の到達時間です。洪水の到達時間とは流域の最も遠い地点に降った雨がダムに到達するに要する時間でありますが、標高600mの槇尾山の頂上に降った雨が3.3km先のダムに20分で到着するでしょうか?山奥から平均時速およそ10kmで雨が流れるなんて到底考えられません。
今回大阪府に洪水到達時間20分の根拠を質したところ、別紙に詳細を記述していますが”流入時間10.4分、流下時間11.9分計22.3分でこれを丸めて20分とした”との回答がありました。
ここで疑問なのが流入時間10.4分です。この程度の流入時間は建設省河川砂防技術基準(案)P88表5-6にもありますように市街地での流入時間であり、今回のダム上流の鬱蒼とした樹林よりなる流域の値とはとうてい思われません。
建設省河川砂防技術基準(案)調査編P87によると、「自然山地における河道への流入時間は、市街地におけるものよりも定量化が困難であるので、複数の経験式等を用いて比較検討して求めるのが望ましい」とされている。
そこで各種の経験式により妥当な洪水到達時間を求めた結果は(詳細別紙)
次ページ表の通りであり、大阪府の値は他のいずれの方式の試算と大きくかけ離れており、感覚的にもあり得ない値と思われるのでこれを除き平均して洪水到達時間は
65.6分と推定して間違いはないと考える。
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流下時間(T1) |
流入時間(T2) |
洪水到達時間(T1+T2) |
大阪府の回答 |
11.9 |
10.4 |
22.3 |
土木 研究所の式 |
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59.4 |
角屋の 式 |
11.9 |
61.1 |
73.0 |
等価粗 度法 |
11.9 |
66.7 |
78.6 |
Kerby の式 |
11.9 |
39.5 |
51.4 |
平均 |
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65.6 |
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この洪水到達時間をもとに合理式にてピーク流量を求めると55.2トン/秒となりました。計算式は
Q=1/3.6*F*R*A
Q:ダム地点ピーク流量(基本高水流量)
F:流出係数 大阪府試算と同じ0.7
R:洪水到着時間内の平均雨量強度(mm/hr)
A:流域面積 3.4(km2)
ここで洪水到着時間内の平均雨量強度は到着時間で決定されるもので、大阪府の再評価委員会提出の参考資料 参考ー10及び前述の20分降雨強度は132.6mmからこれをグラフ化しその関係を検討すると、洪水到着時間と降雨強度の関係式は以下を使ったものと思われます。
I=2010/(T2/3+7.8)
本式による大阪府資料との適合性は別紙資料をご覧下さい。
この式を用いて洪水到着時間65.6分の降雨強度を求めると55.2トン/秒となります。
今回計画の85トンとは約30トンの開きがあります。大阪府の”合理式とも合致することから85トン/秒は妥当”との論拠は成立しないことになります。
前に述べました最大雨量86.9トン/秒の流出係数0.7をかけて計算した57.5トン/秒に今回の私の計算結果はほぼ合致しており、これらから大阪府の85トン/秒の計画は極めて過大に流量を見積もった計画といえます。
このような狭い流域で洪水到達時間も小さく、流域に貯留の無い河川のピーク流量は合理式での計算が良く合致することが認められています。ダム直下での基本高水流量は55トン/秒程度がやはり妥当であることが判明しました。
ダム直下の基本高水を85トン/秒を前提とした板原基準点の基本高水流量が710トン/秒であるから、これが55トン/秒に低下すると板原のそれは700トン/秒を下回り、ダムが不要との結論に至ります。
ちなみに昭和57年8月の降雨実績で計算したダム直下でのピーク流量55トン/秒時の板原基準点の基本高水流量はこれも大阪府の資料で698トン/秒となっています。今回の板原基準点での河道整備基準の計画高水流量700トン/秒からすると、ダムは不要との結論となります。