槇尾川ダム再々評価委員会で意見陳述
小林昌子の意見陳述

和泉市市議会議員を務めさせて頂いております小林昌子と申します。
ダム建設反対の立場から2点意見陳述させて頂きます。

まず一点目は一貫性のない治水対策についてであります。
現在和泉市の東南部山麓に泉州東部農用地整備事業が行われています。
国、大阪府、関連市が共同で農用地の整備を行っています。ここでは新たな農用地の確保のため大規模に山林を伐採し、更に農道の建設のため緑が無くなっています。
又いぶき野地区の調整地が槇尾川の河川改修が終わるまでの暫定対応が終了すればこれを宅地等に転用の計画が進んでいます。
新河川法での総合治水が叫ばれている中にあって、このように治水能力を削減しながら、一方でダムを建設する等いう一貫性のない治水対策には大いに疑問があります。
先般の和泉市の市議会での私の質問に対し、泉州東部農用地整備事業で失われた保水能力に匹敵する調整地の計画があるやに聞いていますが、本当に対応が可能なのか疑問があります。

更にダムとは関連ありませんが、この農用地整備事業の現場では度々堰堤等の崩落が発生しており、その面からも十分な対応がとれるのか疑問があります。
又いぶき野調整地はこの調整地は治水計画に含まれていないため、予定通り廃止するとの考えが述べられました。この調整地は4万トンの貯水能力を持っています。
今回情報公開で手に入れました平成15年度槇尾川ダム治水計画業務委託報告書によりますと、100年確率規模の雨が降ったときにダムによる浸水防止効果は浸水面積と軽減される浸水深さから計算すると28万トンの浸水防止効果があり計算になります。
それに対していぶき野調整地の4万トンは約15%で決して小さい値ではありません。
現在この調整地が治水計画の範囲に無いなら、今からでもこれを治水計画の対象として、現実にある治水手段を無くすような愚行は直ちにやめるべきと考えます。

次に2点目のダムの効果についてであります。
先程の報告書からダムの効果をまとめたのが図1です。
100年確率規模の雨が降ったときのダムの効果ですが、浸水面積では僅か33.2Haの減少。
全体の浸水面積の割合で3.5%の削減効果しかなく、浸水深さの低減は平均浸水深さ、最大浸水深さとの3cm程度の削減効果しかありません。
一般市民はダムが出来れば水害は大幅に改善されると考えているのではないでしょうか。
このような程度の効果に、自然を破壊し、130億円の巨費を投じる意味が本当にあるのでしょうか。

次に費用対効果についてであります。
今回費用対効果が10.4倍から1.4倍に大幅に低下しました。
この変化は通常に見直しの範囲を超えたもので、従来の値はデタラメであったと言うことです。
この見直しにより、想定被害も大幅に見直されたものと思いましたが、結局被害額の過大想定は改められていませんでした。
図2をご覧下さい。
10年確率規模と100年確率規模の被害額の見積もりを、前回の再評価と今回の再々評価の値を、実際の災害と比較したのがこの表です。
まず10年確率規模の被害額の想定です。
今回の槇尾川ダムの契機となった昭和57年の水害は大阪府の見解によりますと、10年から20年確率規模に相当するとなっています。
ところが被害額をご覧下さい。
昭和57年の被害額は46億円。それに対し今回の想定被害額は984億円と20倍を超える被害想定となっています。一桁違うのではありませんか。
更に100年確率規模の雨の時は。
このような雨は最近降った実績がありませんので、平成12年に発生した東海豪雨と比較してみます。
平成12年9月に発生した東海地方の豪雨は、防災科学技術研究所の主要災害調査第38号(平成14年7月)の資料には次のように記載されています。これがその報告書です。
平成 12年9 月11 日から12 日にかけ台風14 号が,愛知県を中心として東海地方に名古屋地方気象台観測史上最大の総雨量567mm,最大時間雨量93mm という降雨をもたらした。
河川では,基本計画高水位を越える大洪水となり,溢水や破堤が発生し,市街地では雨水排水路網が氾濫し,過去40 年間の水害中,最大の一般資産・営業停止損失等被害額が記録された。
また,名古屋という大都市の1/3 が浸水し,場所によっては,2m 以上の浸水深が記録されるなど,伊勢湾台風に次ぐ大きな水害となり,社会的にも大きな衝撃を与えた。
この水害では,愛知県を中心に山梨,長野,岐阜,静岡,愛知,三重の6 県で,浸水面積29,413ha,死者10 名,負傷者106 名,全壊・流失家屋42 棟,半壊家屋137 棟,床上浸水28,363 棟,床下浸水44,205 棟,被害額7,267 億円(一般資産等被害額6,606 億円,公共土木施設被害605 億円,公益事業被害57 億円)の被害が発生した。
となっています。
これを比較したのがこれです。
浸水面積が1/30程度なのに被害想定は1/3となっています。
被害額が浸水面積に比例すると考えると被害総定額は10倍も過大に見積もっていることになります。
10年確率、100年確率何れも10倍以上即ち一桁違う過大な被害想定をしていることになります。
この被害想定を元にした被害回避効果も10倍以上多く見積もっている事になります。
このような一桁違う想定被害を前提にした回避効果も同じく1桁多く見積もっていることになります。
結局1.4倍の費用対効果は1より大幅に小さくなり、ダムの経済的効果が否定される事になります。
このダム計画はその根拠が不確かで、且つダム建設は全ての治水手段がなくなった場合にしか認められないとした、淀川水系流域委員会の提言に照らしても直ちに中止すべきであります。
更にダムには寿命があります。
第60回国会で建設省河川局長は「ダムの寿命は標準的に80年と考えている。勿論計画上は100年以上持つことで考えている」と答弁しています。
コンクリートの構造物を建設すると100年前後での撤去は避けて通れない課題であります。
国内で現在撤去の予定があるのは熊本県八代郡坂本村にある荒瀬ダムです。
このダムは1953年3月に工事が始まり1955年に運転開始された発電用ダムで2010年に撤去が予定されています。
熊本県企業局は撤去に際しての課題として
1)水位を下げることによる道路や護岸への影響
2)堆砂の流出による下流への影響
を挙げ、ダム本体を除去するだけでは終わらないとの認識を示しています。
しかも撤去費は国土交通省の見解では設置者である県の責任だとしており、県はこれを電気事業の採算内で捻出する予定で、総額47億円程度では「美観まで考えればとてもまかなえる額ではない」と県企業局自体が認めています。
一方この50年間ダムを見続けてきた「坂本村川漁師組合」組合長は「補償金と引き替えるように村の自然環境、産業は急変していった。球磨川が村の最大の財産だと気づいた今、ダムを撤去して誇りを取り戻したかです」と述べられています。
一方天竜川水系三峰川(みぶがわ)に昭和33年竣工した国営の美和ダムがあります。
このダムは土砂流入が激しく設計段階から堆砂容量を確保してあったにもかかわらず、予想以上の土砂の流入により堆砂容量はダム完成から数年で使い切ってしまい、現在では計画容量の2倍以上の堆砂におそわれています。
そこで世界で初めて排砂トンネルを建設し、ダム寿命を延命させるために450億円が予定されているそうです。
100年は持つとされたこのダムは50年ともたず、ダム建設費の数倍以上の税金をかけて寿命を延ばしています。
槇尾川ダムにも同様の問題が避けて通れません。
このようにダムは寿命がくれば膨大な費用が新たに発生します。
今回の新しい費用対効果の計算に残存価値を認めていますが、全く逆で新たな費用が発生するのです。
100年後の子孫に誇れる自然を残すのか、あるいは撤去に課題山積のダムを残すのか今を生きる私達の見識が問われます。

再評価委員会の皆様のご賢察を期待して、私の意見陳述は終わります。ありがとうございました。


小林洋一の意見陳述

和泉市に在住します小林洋一です。
槙尾川ダム計画の問題について基本高水について意見陳述させて頂きます。

まずダムサイトの基本高水であります。
大阪府はダムサイトの基本高水を85トン/Sとしています。
先般の再評価委員会でこの値は高すぎるとの指摘に対して、合理式で検証しても87.7トン/Sとなり妥当との見解を示しています。この時洪水到達時間は20分として計算したものです。(槙尾川ダム住民見解A-U-(1)-A-b)
比較的狭い流域で貯留施設が無い流域の基本高水の計算には合理式が多用されています。
大津川水系河川整備基本方針(素案)H12.6 P29においても合理式で検証して決めると書かれており重要なステップであります。
洪水到達時間とは雨が降ってその雨がダムサイトまで到達するのに要する時間の最大を言います。平たく言えばダムから最も遠い地点からダムまで降った雨が到達する時間のことです。
合理式ではこの洪水到達時間が短ければ短いほど基本高水は大きくなる極めて重要な値であります。
これがダムの模式図です。(図1

槙尾山の鬱蒼と茂った山奥から3.3Km離れたダムまで先程の大阪府の20分で到達するでしょうか。時速に直せば10Kmです。
常識では考えられません。
和泉市市議会議員小林昌子の一般質問に対して、大阪府はこの20分の算出根拠を示しました。
それによりますとクラーヘン式で計算したと言うことです。クラーヘン式とはこれです。中小河川計画の手引き(案)です。(図2
流域から河道に至る流入時間と河道内の流下時間の合計を洪水到達時間とするものです。
ここで問題は河道までの時間すなわち流入時間です。
クラーヘン式では山地における2km2での流入時間は30分としています。そしてここにもありますように当該河川の流入域2km2を先取りしてその流入時間を30分とし、流入域を除いた流域の河道延長で流下時間を計算するとあります。
槙尾川ダムにあてはめれば大凡このようになります。(図2
これで先ほどの計算をしてみますと流入時間30分、残りの河道は約1.2kmで6分の合計36分となります。

ところが大阪府は図2の但し書きにあります流入域2km2を除いた流域面積が極端に小さくなる場合又は流域が2km2に満たない場合に適用される方式を当てはめて計算しています。その結果河道先端までの流入時間を10分、ダムまでの流下時間12分合計して22分これを丸めて20分と計算したのです。
ダムの流域は3.4km2あります。この計算方式は槇尾川ダムには適用できません。
この中小河川計画の手引きに合理式の適用事例がありますが、大阪府のような計算したものはありません。
私の知る限りでは流域面積が2km2を超えているところで大阪府のような計算をしているところはありません。
ここにお隣の大津川水系河川整備計画の資料がありますが、ここに槇尾川ダムとよく似た流域がありますが、大阪府のような計算はしていません。
さらにここに島根県の河川改修計画実施要領がありますが、ここにクラーヘン式の詳しい適用が書かれていますが同様であります。

さてこの洪水到達時間の差は基本高水に大きく影響します。
大阪府の20分で計算した基本高水は85トン、正しい適用をした36分では70トンと15トンもの差があります。
板原基準点の基本高水は710トンとするなら、15トン減れば正確な計算ではありませんがこの値は700トンをきるものと思われます。

このように洪水到達時間は基本高水に大きな影響を持っています。
そのことから大阪府が常用している「建設省河川砂防技術基準(案)」によりますと“流入時間は流路に達するまでの排水区の形状や面積の大小、地表面の勾配、地被状態、流下距離、降雨強度など多くの要素に支配される。(中略)自然山地に於ける河道への流入時間は、市街地に於けるものよりも定量化が困難であるので、複数の経験式等を用いて比較検討することが望ましい。”
とあります。
洪水到達時間を計算する式は各種提案されており、槙尾川ダムに当てはめて計算したのがこれであります。(図3
いずれの式においても大阪府の20分の値が極端に小さい値を示しています。
クラーヘン式を使うにしても本来の計算方法の36分を使用すべきであります。

更に付け加えますと2tg法という計算方式があります。
これは実際の降雨と流量の測定結果から洪水到達時間を導く方法で、洪水到達時間は降雨のピークと流量のピークの発生する時間差の2倍を洪水到達時間とするものです。
実際の測定データがあれば簡単に計算できる方式です。
槙尾川ダムについてはそのデータがありませんので、大阪府がモデル降雨で計算した流量予測を使って計算してみます。
この資料を見てください。これは槇尾川ダム参考資料2-1 P8の資料です。(図4
ここに板原基準点とダムサイトの流量の推移を記したものです。下の拡大したところを見てください。
ダムサイトのピーク流量は降雨のピークの0.3Hr後に発生しています。
これが正しいとすると洪水到達時間は0.3Hrの2倍即ち0.6Hr 36分となります。
偶然とは思いますがクラーヘンの本来の計算で求めた値と同一になっています。

それらの洪水到達時間での基本高水はこのようになります。いずれも大阪府の基本高水より大幅に小さい結果となっています。

続いて板原基準点での基本高水についてであります。大阪府はこの基本高水を中安式単位図法で計算した値710トンを切り上げ750トンとしています。
同様に合理式で計算した基本高水を大阪府に確認したところ、合理式で計算した基本高水は706トンとしています。
情報公開でこの706トンの計算根拠を請求しました。

ここでもクラーヘン式で計算した洪水到達時間に多くの疑問があります。
その一つは流出係数であります。大阪府は将来の都市化の要素を含めて計算した流出係数を0.721として計算しています。これがその資料です。(図5
大阪府の計算では標準値として一般市街地0.8、水田0.7、山地、0.7 としていますが、河川砂防技術基準にはこれ以外に 畑・原野0.6 があります。この計算にはそれが抜けています。大阪府農林水産統計年報によりますと和泉市の畑(果樹園を含む)は5.5Km2あります。
これが大阪府の計算では山地・水田に整理されているでしょうから、その分を0.7から0.6に変更すると全体の流出係数はおおよそ0.01低下します。

更にクラーヘン式で計算した洪水到達時間であります。
既にダムサイトの所でも述べました流入時間の計算誤りと流下時間についても勾配が違っている。
大津川推計河川整備基本方針 第3回委員会 説明資料 資料3(平成12年9月)の資料から
・父鬼川ダム地点(旧計画)から神田橋間を一括して計算しているが神田橋の手前大川橋から神田橋間の勾配は1/200と小さく、この間は流速3.5m/sではなく2.1m/sで計算すべきであります。
・川中橋から柳田橋間の勾配は1/300〜1/350でありこの間の流速は3.0m/sでなく2.1m/sで計算すべきであります。
この結果クラーヘン式で計算した洪水到達時間はこのようになります。これです。
大阪府の2.28Hrが2.88Hrと0.6Hr分延びることになります。(図6

続いて平成元年の柳田橋と平成7年の川中橋での降雨と流量の実績から洪水到達時間を求めますと
これが柳田橋の実績です。平成12年6月大津川水系河川整備基本方針(素案)のP46の資料です。(図7
降雨のピークと流量のピークの差は5.3Hr、従って洪水到達時間は636minとなります。
次に柳田橋より上流の川中橋の実績がこれです。同じ資料のP47の資料です。
ピークの差は3.7Hr、洪水到達時間は444minとなります。(図8

これを元に板原基準点での洪水到達時間を求めたのがこれです。(図9

洪水到達時間は降雨強度の影響を受けますのでこれを今回最大時間雨量86.9mmに補正し、更にそれぞれに地点から基準点までの流下時間を加えたのがこれです。ほぼ400min位の洪水到達時間です。

これらの数値を元に計算した基本高水はこの図の通りです。(図10
何れも河川での対応で十分の結果となっています。
ダムサイト及び基準点での基本高水は過大すぎることが明確になりました。
ダムは不要と言うことです。

その他にも意見を述べたかったのですが、時間がありませんのでここで終わります。
いずれにしてもこの計画のずさんさが明らかになりました。
再評価委員会の皆様のご賢察を期待して、私の意見陳述は終わります。ありがとうございました。